マニアでもないのに鉄道の本を読んだ

鉄道に関する本を立て続けに読んだ。

三戸祐子『定刻発車』(新潮文庫)☆☆☆☆★
偶然にも、あの事故の翌日に発売された本である。題名があまりにも気になったのでつい手にとってしまった。
日本の鉄道は定刻発着するのが当たり前であるが、諸外国では当たり前ではなかったということが良くわかる本である。日本の在来線の定時運転は、2003年で90.3%だそうだ。イギリスやフランスでも大体同じ数字ということらしいが、日本で遅れとみなされるのは1分以上であるのに対し、諸外国では10分や15分では遅れとみなさないそうだ。
日本人がなぜそこまで定刻発車にこだわるのか、なんと江戸時代にまでさかのぼって原因を追究している。また、定刻発車を支える超巨大鉄道システムについても、非常に判りやすく解説している。

角本良平『新幹線開発物語』(中公文庫)☆☆☆★★
世界一早い鉄道はなぜ計画され、どうやって建設されたかが良くわかる良書。もともとは新幹線開通前の、1964年の本(とはいえ、2001年に加筆訂正はある)なので、プロジェクトXの様な回顧調ではなくではなく、今まさに起こっていることとして書かれており、臨場感がある。
「開発秘話」的な話や、中心人物(十河総裁や島技師長、あるいは鉄研の技術者)の伝記的な話ではなく、計画された時代背景、予算、技術的背景、用地取得、安全対策、運行方針などを、判りやすく解説することを主眼としているようだ。
面白いのは「開業前の未来予測」の部分だ。鉄道新路線は交通需要のあるところに限るべきで、そうでなければ山間の赤字ローカル線と変わらない、と新幹線開通前の時点で断じている。
現実には、ほとんど無意味とも思われるほど、各地で新幹線計画があり、そのうちのいくつかは不幸なことに実現してしまっている。経済は停滞し、人口は減少に転じつつある現在、その採算性は限りなく疑わしい。

上記二冊の本はいずれも鉄道事故とは直接関係ないが、それでもこれらの本を読むと、尼崎の事故がなぜ起こったのか、本質的な原因が見えてくる気がする。

東海道新幹線においては、開通まで5年という短い期間ながら、その必要性や採算、技術的可能性など、きちんと研究して計画が作られているように感じる。(建設費に関してはとんでもないこととなったが)

定刻発車を支えるシステムにおいては、攪乱要因を可能な限り予測・予防し、厳しいながらもそれでも余裕のある運行計画、想定外の事態になることまで含め、あらゆることを想定した運輸指令が行われている。

尼崎線は、路線計画や運行計画が、果たしてそのようになっていたのだろうか。

鉄道は、日本が誇る屈指の巨大システムである。
鉄道関係者は、その神話を壊すことのないように、一所懸命にその仕事を全うしてほしいと思う。

無學童子
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