歴史教科書問題
栃木県大田原市教育委員会が13日開かれ、来年度から使用する中学の歴史、公民の両教科書に「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが執筆した扶桑社
発行の教科書を採択した。同社の教科書は、私立校や東京都立の中高一貫校など全国19校で使われているが、市町村で採択されたのは初めて。
扶桑社の歴史教科書については内容を全く見ていないのでその良し悪しは評価できない。また、教育委員会が国の検定を通過した教科書のうちどれを採択するかは、全くの自由だ。
ただ、解せないことがある。記者会見によれば、この教育的配慮によりこれらの教科書を採択したのだという。
この教科書の内容については賛否両論があり、国際的にも関心が高いことは紛れもない事実である。この教科書を採用すれば、あらゆるところから非難が起こることは、誰が見ても明らかである。その非難自体は教育委員会が受けることなので問題はないが、それを知った、この教科書を使う子供たちは果たしてどう思うのだろうか。
この教科書を採用すれば、それで教えを受ける子供たちに大きな影響を与えることは間違いない。教科書の反対派・賛成派やマスコミ、市民団体からあらゆる関心が寄せられ、いろいろなコメントが出るだろう。また、「変な教科書で歴史を学んだ子供」というレッテルも貼られかねない。そういったことに対するれ教育的配慮はなかったのだろうか。
繰り返していうが、私は、扶桑社の教科書は読んでいないのでよいのか悪いのか知らない。しかし、この教科書を採用することによって、この地域の子供たち間違いなく、必要のない注目を浴びることになる。これではとても落ち着いた教育環境とはいえない。そういう決断を下した教育委員会の見識は、疑わしいものがある。
「新しい歴史教科書を作る会」に関する私見としては、代表役員の中に、そうそうたる教授陣が並んでいるものの、その中で歴史を専門としている人は二人、しかも一人は西洋史、それ以外は政治学者や評論家ばかり、という点が気にかかる。
日本の近代史を専攻した私にしてみれば、歴史なんてどれが事実かさっぱりわからん、というのが本音。教科書は「?である。」なんて書いているけど、本音としては「?という説が有力である。」とか「?といわれている。」というのが正解。一般の人が歴史系の学会とかに行ったらびっくりするだろうな、と思う。「大化の改新はなかった」とか、きちんとした証拠を挙げてそういう説を唱える先生もいるのだ。もちろん反証もあるのだけど、どっちが本当かにわかには判断できないことは請け合い。
少し前まで足利尊氏と紹介されていた肖像画だって、いまでは「武者像(伝・足利尊氏)」。新しいか古いかは知らないけど、歴史教科書なんてみんなそんなもんである。
どんな教科書を採用してもよいけれど、社会の先生にぜひお願いしたいのは、何にでも疑問を持って良いことを生徒には教えてほしい。その疑問を追及して、徹底的に調べて、そこから何か納得の行くものを得られれば、それが真実なのだから。学問ってそういう楽しいものだ。政治的に利用なんてされてたまるか。