書店はなくなるぞ!

著作権に関わる問題(私的録音保証金制度とかコピーワンスとか)とならんで、昔から僕が興味を持っているのは再販制度についてだ。

著作権も再販制度も、直接の結びつきは無いものの、著作物の保護という観点からは、間接的な関係がある。

ここで改めて僕の立場を明らかにしよう。

1:著作権について
・50年から70年への期間の延長は原則反対。ただし、50年を超える分については、一定の著作権維持料を国庫に支払い、支払わないなら失効というのであればOK。
・私的録音保証金制度には反対。維持するのであれば、DRMほか、技術的なコピーコントロールは禁止すべき。
・原著作者保護の観点から、著作権を譲渡した場合でも、放棄不能の遺留分を確保すべき。実際、アーティストがデビューするにあたって、音楽出版社に全権利が渡ってしまうような契約が罷り通っており、これは大問題だと思う。

2:再販売価格維持制度について
・あらゆる分野において、即時撤廃すべき。

再販制度について、なぜ反対かというと、一番単純にいえば、経済の原則に反するから。
今の経済の仕組みってのは、原則として需要と供給で値段が決まるものでしょ。
それなのに、需要や供給と関係なく、価格が決まってるってのはおかしい。
もちろん、売れなきゃ困るわけだから、売れる価格に設定はしてるんだけれども。

僕の勤めている会社ってのは、「三割四割当たり前!」っていって、カメラ製品や家電製品を定価から何割も引いて販売して、大きくなったところなの。
元祖価格破壊者。

メーカーから、一括で大量に購入し、仕切りを下げさせる。
その代わり、ほとんどの場合返品不可。
だから安く売れる。
しかも、返品できないから、売れないと分かったらさらに価格を下げて、赤字でも売ってしまう。
持っていても、さらに陳腐になっちゃうだけだからね。

なんとうらやましいことに、書店業界ってのはこういうことがほとんどない。
売れなかったら、取次ぎ(本の問屋さん)に返すだけ。
問屋は出版社に返して、返された本はどうなるかというと、再出荷分を除いて、裁断処分。
値引いて、損してまで売りきらなくても良いのですよ。
一説によると、返品は全流通量の4割になるとか。
普通の業界だったら潰れるよね。

家電量販店やスーパーなんかの小売店って言うのは、仕入れに見極めが大変だし、そして重要。
野菜なんか、仕入れすぎて売れ残れば損失になるけれど、仕入れを抑えすぎれば、儲ける機会を逸することになる。
いつも切磋琢磨するから、仕入れの見極め力もつくってもんでしょ。

でも、書店にはそんな力は要らない。
だって、取次ぎから送られてきた本を並べて、残ったら返せばいい。
工夫の余地は、店頭での見せ方だけ。ちょっとしたポップなんかつけてね。

こんなことが罷り通っているおかげで、全国どこの書店も似たり寄ったりの品揃えになる。
だいたいが、雑誌とコミックと文庫とノベルス。
こんな書店、面白くもなんとも無い。

もちろん、こういった金太郎飴みたいな状態から何とか脱却しようとしている書店は全国に多々あるのだけれど、根本的な部分(流通と再販)の仕組みがまったく変わらないから、全国的な潮流にはなっていない。

閑話休題、再販の話に戻ろう。
定価販売を維持しないと、こういった返品多発の商習慣って維持できないらしい。
しかし、これが僕にはどうにも正常な姿に見えない。
だって、返品と裁断にだって、相当なコストがかかってるんだよ。
その部分がなくなれば、本はもっと安くできる。
要は、一見書店にとって都合の良い、おかしな商習慣を維持するために、定価という形で、消費者に余分な負担がかかっているのだ。

さて、撤廃反対論者がよく言うのは
1:本の種類が少なくなる
2:本の内容が偏る
3:価格が高くなる
4:遠隔地は都市部より本の価格が上昇する
5:町の本屋さんが減る

その理由として、

 再販制度がなくなって安売り競争が行なわれるようになると、書店が仕入れる出版物は売行き予測の立てやすいベストセラーものに偏りがちになり、みせかけの価格が高くなります。また、専門書や個性的な出版物を仕入れることのできる書店が今よりも大幅に減少します。
(日本書店商業組合連合会のホームページより)

このページを見ると、「本の再販制度についてご理解とご協力を!」と書いてあるんだけれど、頭が痛くなるくらい、論が飛躍していて、何の説明にもなっていない。

何故?に答えていない。

1:本の種類が少なくなる
2:本の内容が偏る
多分、売れ筋の本ばかり作って、多様性がなくなるといいたいのだろうが、どの業界だって売れ筋の商品ばかりで成り立っているわけではない。
ニッチな商品を作って成功している企業もあるわけで、出版業界だけが例外になる理由はない。

これって、「消費者はバカだから売れ筋のものしか買わない」って言っているようなもんだよね。

3:価格が高くなる
これは何を言っているのかまったくわからん。

4:遠隔地は都市部より本の価格が上昇する
これは何故悪いのだろう?
そもそも、全国均一で売っているって方がおかしいんじゃないのか?
じゃぁ、地球が一つの国家だったとして、全ての出版社が東京に集中している状態で、東京の書店とアマゾンの奥地の書店と、同じ価格で売るのか?
文化的格差のことを指すのなら、ニューヨークの書店でも日本の本は定価で売ってくれ。
文化より大事な食料品は、全国バラバラの価格。食料より本が大事だとは思わない。
それにね、これはネット書店を無視しているよね。

5:町の本屋さんが減る
確かに、減るかもしれない。
でもこれは、再販制度の維持で守るべきものではなく、経済産業省や地方自治体による、中小企業の保護政策によって守られるべきものでしょ。趣旨が違うって。
それに、基本的には書店の自助努力でどうにかすべきものであって、僕には関係がない。
ハッキリいえば、淘汰されて消えるのはやむをえないということ。
うちの近くにも知っている限り三軒書店があるけれど、普段行くのは一箇所だけ。
いつも行くのは駅前の須原屋。三階建ての中規模書店。
もう一箇所は一番小さいけれど、コミックの品揃えがマニアック。
もう一軒は、雑誌とコミックと文庫とノベルスしかない書店。

書店が仕入れる出版物は売行き予測の立てやすいベストセラーものに偏りがちになり

これは業界の怠慢そのものだよね。
そもそも、地方の弱小書店に、ベストセラーってキチンと配本されてる?
いくら注文を出しても、ぜんぜん入ってこないって、色々なところから聞く。
ハリーポッターは買い切りだから注文通り入ったらしいけど、逆に困ったと聞く。
普通の業界なら、過剰入荷したものは、見切り価格で販売してしまうけど、定価売りしかできない書店さんは、返品もかなわず、どうやって処分したんだろうね。

専門書や個性的な出版物を仕入れることのできる書店が今よりも大幅に減少します。

これも業界の怠慢を業界自身が書いている。
ある種の本を欲しい人が、その手の本が出ていることを認識できるようにする手段って、店頭に並べるしかないって言う考え方が既に間違っている。
近所の書店に行っても、専門書や個性的な出版物なんか置いてないよ。
そういう本が欲しい人は、そういう書店にいったり、近所の書店で注文を出したりしてる。

再販制度が維持できなければ、良書はどんどん絶版になるというけれど、再販制度が維持されている現在でも、良書はどんどん絶版になっている。
再販制度維持のためにそんな屁理屈を持ち出す前に、オンデマンド本をもっと普及させる方法を考えるとか、やることはいっぱいあるでしょ。

本っていうのは極論としては、ただの文字情報なわけで、デジタル化には向いている。
何も、紙に印刷して製本しなければならないなんてことはない。
電子ブックが普及しないのは、紙以上に適切なデバイスがまだ出てこないからというだけ。
まぁ、電子ブックについては別の機会に譲るけど、本が紙でなくデジタルデータになったら、多分読書端末をインターネットに接続して、ネット書店から購入することになるんだろうよ。
そしたら、書店の存在価値はなくなる。

書店は、再販制度撤廃反対なんていっている暇があったら、近い将来間違いなく訪れるであろう「紙の本がなくなる」というもっと大きな危機の対策をしたほうが良い。
何も、ヴィレッジヴァンガードみたいになれとはいわないけれどね。

無學童子

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です