嗚呼無情 テーマ特集「たまご」のための番外編 ある盗賊団首領の嘆き 三度
「無情だ」
「聞き飽きましたな、その言葉も」
「部下にそのような口の聞き方をされるともっと無情になるな」
「そういって怒られるのは心外ですな。だったらもっとまともな首領になってくださいよ」
「まともになろうとして、わしに無情感を食らわせたのは社会だ。世の中虚栄に満ちておるわ」
「そうはいっても、もうそろそろ新しいおつとめをしませんと、たまごを買う金も無くなってしまいます」
「それほどまずいのか」
「たまごはおいしいです」
「違う。財政状況の話だ」
「自分の胸に手を当ててみたらどうですか。今年に入ってそんなに食えるほど私ら稼いだと思いますか?」
「そうは思えんな。ところで何ぞいいネタでもあるのか」
「ありますあります、とびっきりのが」
「金のなる木でも見つけたか」
「いや、金のたまごです」
「ほう! 金のたまごか」
「はい」
「産業の機密でも盗んでくるのか?」
「詳しいことはわかりませんが、ソ○ーのものらしいのでほぼ確実かと」
「○ニーか。すばらしい。誰のネタだ」
「びんたぼ語の部下です」
「………」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっといやな予感がした。まあよい。とにかくその計画は承認した。早速実行に移せ」
解説 「ある盗賊団」ほどの規模だと、首領自ら手を下すことは少ない。特にこの首領、名だたる怠け者なので、計画すら見ようとしない。
「………」
「どうした?」
「いや、」
「昨晩確かに金のたまごを盗んできました」
「そうか、でかした。で、企業秘密の書類か何かか?」
「いえいえ、そんなものではありません」
「すると何か最新の装置か?」
「いえいえ、そんなものでもありません」
「では何なんだ」
「ですから、金のたまごです」
「???」
「実物の金のたまごだったんですよ。鶏に色素を注入して、たまごを金色にすることに成功したんです。」
「………。さすがはびんたぼ語だな。うーん、無情よ」
初出「探書手帳27」(1998/9)