違憲判断
イラク自衛隊:多国籍軍空輸は違憲 名古屋高裁が初の判断
イラクへの自衛隊派遣は違憲だとして、市民団体などが国に派遣差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決が17日、名古屋高裁であった。青山邦夫裁判長(高田健一裁判長代読)は原告の請求を却下するなどした1審・名古屋地裁判決を支持し、控訴を棄却したが、「航空自衛隊による多国籍軍の空輸活動は憲法9条に違反している」との判断を示した。
全国で行われている同種の訴訟で空自の活動の一部を違憲と認定したのは初めて。原告団は「控訴は棄却されたが、違憲の司法判断が示された」として上告しない方針で、勝訴した国は上告できないため判決が確定する。
青山裁判長は判決で「イラクでは、多国籍軍と国内の武装勢力の間で国際的な武力紛争が行われ、特に首都バグダッドは多数の犠牲者が出ている地域でイラク復興特別措置法でいう『戦闘地域』に該当する」と認定。クウェートからバグダッドへ多国籍軍の兵士を空輸する空自の活動について「戦闘行為に必要不可欠な後方支援を行っており、他国による武力行使と一体化した行動」と述べ、武力行使を禁止した憲法9条1項とイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反すると判断した。
また原告は派遣により平和的生存権が侵害されると訴えていたが、判決は平和的生存権を「憲法上の法的な権利」と認定。「戦争への協力の強制など憲法9条に違反する国の行為により個人の生命が侵害されるような場合には、裁判所に違憲行為の差し止めを請求するなどの具体的権利性がある」と判断した。
そのうえで、今回の原告の請求については「戦争への協力を強制されるまでの事態が生じているとは言えない」などとして控訴を全面的に棄却した。
同訴訟原告団は04?06年、自衛隊の派遣差し止めと違憲確認、原告1人当たり1万円の損害賠償を求め、7次に分かれて計3268人が集団提訴し、うち1122人が控訴していた。原告団によると、自衛隊のイラク派遣を巡り、全国の11地裁で提訴されているが、判決はいずれも原告側の訴えを退けている。【秋山信一】
▽弁護団長の内河恵一弁護士の話 ようやく勝ち取った違憲判決。裁判所がしっかりした考えを出してくれたことを法律家として誇りに思う。
▽防衛省の話 判決文の細部を確認中で、現時点ではコメントできない。
【ことば】自衛隊イラク派遣 イラク戦争初期の03年12月から同国の再建支援を目的に自衛隊を派遣している活動の総称。具体的な活動内容はイラク特措法に基づく基本計画で規定。活動の柱は人道復興支援活動と安全確保支援活動で、活動は非戦闘地域に限定されている。陸上自衛隊は06年7月に撤収したが、航空自衛隊は現在も約200人を派遣している。
確かに画期的な判決といえるだろう。
国際的に見て、きわめて常識的な範囲の中で行われる自衛隊の活動が「違憲」ということになれば、むしろ憲法を改正し違憲ではない状態にするという動きに勢いを与えることだろう。
少なくとも憲法改正のための法律の準備はできているわけで、今後そういった方向に行くのは間違いないだろう。
しかも今回の高裁の判断は「傍論」であるから、判決ではないため判例にもならず何の拘束力も無い。
原告は喜んでいるようだが、彼らは敗訴しているのである。
彼らを敗訴に追い込んだ上、何ら拘束力の無い傍論に彼らの主張を盛り込んだことは、上告を阻止させたという意味では非常に巧妙な判決といえる。