『自販機の時代』
鈴木 隆『自販機の時代―”7兆円の売り子”を育てた男たちの話』(日本経済新聞出版社)
日本における自販機の設置台数は約550万台。
米国に次ぐ世界第二位の数だそうだ。
そして人口一人あたりでは、米国の二倍。
紛れもなく世界第一位である。
飲料・切符・タバコなどを販売し、その年間売り上げは約7兆円。
コンビニとほぼ同等である。
現在この業界のトップは富士電機リテイルシステムズ、ついで松下電器、サンデン。
本書は後発の富士電機を中心に、松下、サンデン、そしてかつて自販機を作っていた三洋電機・三菱重工・日立製作所の自販機ビジネスの物語である。
自販機後発組の富士電機がなぜ一位になることができたのか。
それは、自販機にかかわった富士の社員には、後がなかったからだ。
それ以外のメーカーには、後があったどころか、手が回らないほどの仕事があった。
水力発電を得意とする富士電機は、水力から火力に時代が移ってきたときに対応できなかった。
家電に参入したものの、松下などにはかなわず、大きな負の遺産を抱えることとなった。
その遺産整理のために、富士電機家電を設立するも、遺産の整理は進まない。
そんな中で参入したのが自販機の製造であった。
三重の工場で家電を作っていた1,500人にとっても、営業部隊にとっても、自販機の成功は生死のかかったことだったのである。
他のメーカーには回帰すべき場所や、進むべき未来がたくさんあったが、富士電機家電には自販機しかなかったのだ。
富士電機の自販機事業の立ち上げを中心に、自販機業界の今までのビジネスが良くまとめられている。
自販機そのものに興味がなくとも、富士の永井などの自販機の立ち上げの英雄の話は、ビジネス成功談として面白いだろう。
それでいながら、プロジェクトX的な押し付けがましさはない。
自販機というあまりにも身近な存在にこれだけの面白い話があったのかと驚いた。
今まで気にしたことはなかったが、自販機にもそれぞれのメーカーのカラーが出ているようだ。どこのメーカーなのか、気になるようになってしまった。
ビジネス成功話が中心なので、自販機そのもののメカニズムについてはほとんど記述がない。
もう少し、メカニズムについても触れてよかったと思うのだが。
☆☆☆★★