ちぐはぐな規制
ネット通販に疎い人は知らないかも知れないが、現在インターネットでは通常のドラッグストアで販売している薬品に相当するものは購入できる。
実は、今この薬品のネット販売で業界が揺れている。
来年6月の薬事法改正で、薬品を3種類に分け、このうち危険性の高い第1/2類を対面販売限定にしようというのだ。
インターネット上のやりとりを「対面販売」に認定しないことで、事実上ネット通販を排除するものである。
薬事関係の規制でもっとも念頭に置かれるべきは、「薬害の根絶」と言うことにつきるだろう。
しかしながら、実際問題としては「根絶」などあり得ないわけだから、現実的には「極力減らす」ということにあるだろう。しかも、経済合理性とのバランスの中で。
「薬害の根絶」を目指すなら、話は簡単。
大衆薬は販売禁止で、全て医師の処方箋が必要になればよい。
医療過疎地域の人でも、体の動かないお年寄りでも、病院に行って処方箋を受け取ればよい。
そういう方向性なら、薬のネット通販禁止もわからない話ではない。
でも同じ薬事法の改正の中で、危険性の少ない第3類については、コンビニなどでも買えるようになるのだ。
誤解の無いように念のため書いておくと、ネットショップには薬剤師がいる。
今回の改正は、経済合理性の観点から、医療費抑制のために大衆薬へ誘導しようというものなのである。
この規制の問題点を整理すると、
- 法律による規制ではなく、省令による規制である
- 店舗に出向くことが出来ない消費者(離島在住・高齢・その他病気による)から、購入の機会を奪うものである。
- ネットショップでは購入履歴の管理が行えるが、薬局では顔はわかっても住んでいるところや名前すらも把握できない。従って何か起こっても購入者に通報できない。
たとえば2について、規制の賛成派は「配置薬や、コンビニエンスストアで買える薬で充分」とするが、パブロンやバファリン、コーラックや正露丸などの昔からある大衆薬ですら規制に入る第2類に入るのである。
それではコンビニではどんな薬が買えるのか。チョコラBBやイソジン、アイボンが買えたところで、論点の解消にはなるまい。
対面についても問題ありだ。
規制の賛成派は「かかりつけの薬局なら顔色でも判断できる」というが、大手ドラッグストアのようなところはかかりつけ薬局になりうるだろうか。
僕は規制対象となると見られるバファリンをドラッグストアでもネット通販でも買ったことがあるが、ドラッグストアで何か注意を促されたことなど一度もない。
ネット通販では注意を促す画面が延々と出てきて読まされた。
どちらが安全かは言うまでも無かろう。
さて、この規制がいかにおかしなものか、もう一つの事例を。
以下は、コンビニでも大衆薬がおけるという規制撤廃についての省令案である。
大衆薬を販売する店舗の主な義務(08年9月公表の改正薬事法省令案で規定)
- 薬剤師または登録販売者が常駐
- 4坪以上の医薬品売り場を設ける
- リスク別に陳列し、第1類は消費者が直接手に取れないように隔離して陳列(オーバー・ザ・カウンター)
- 医薬品の販売時間は営業時間の2分の1以上、第1類は医薬品販売時間の2分の1以上
- 薬剤師または登録販売者は名札に明記
ポイントは面積と販売時間の規制だ。
まず4坪という規制だが、コンビニがこれをクリアするのはなかなか厳しいのでは。
コンビニの面積はおおむね30から45坪程度であるから、その1割も取られるのである。すでに限界まで効率よく使っているところへ、1割もの面積を薬品のために確保するのは難しいだろう。
そして販売時間だが、24時営業のコンビニなら12時間以上の販売時間を要求される。ということは、登録は登録販売者か薬剤師は最低でも2人、シフト勤務のことを考えれば3-4人必要と言うことになる。
法律自体では規制を緩和しているように見せかけて、実際には省令でかなり規制をかけていることがわかる。
これでコンビニは薬品販売に参入できるのだろうか。
尚、この規制に賛成しているのは日本薬剤師会、全国医薬品小売商業組合連合会、全国配置家庭薬協会、全日本薬種商協会、日本医薬品登録販売者協会、日本置き薬協会、日本チェーンドラッグストア協会、日本薬局協励会、日本薬業研修センターの9団体である。
このうち日本医薬品登録販売者協会、日本薬業研修センターは日本チェーンドラッグストア協会に間借りしているらしい。
この規制によってもっとも利益を得るのは全国に店舗展開している大手ドラッグストアチェーンなのは明らか。
ちなみにこの9団体をまとめて大同団結させたのはマツキヨと日本チェーンドラッグストア協会だそうだ。