美しき自転車乗り
キープ社版のグラナダ・ホームズの中で、一見不可解なのはその順番である。
本来、第1作には「ボヘミアの醜聞」が来るはずなのだ。
本作以降も順番がかなり乱れている。
実はこの版は、放送順ではなく「ほぼ」制作順にならなんでいるのだ。
なぜ「ほぼ」かというと、2時間スペシャル版として製作されたものが入っていないから。
題名が「美しき自転車乗り」となっているが、このバイオレット・スミス嬢を美しいと感じられないのは僕だけだろうか。
ま、元々””THE SOLITARY CYCLIST”であって、決して”THE BEAUTIFUL CYCLIST”ではないので、問題はないのだが。
これも延原訳の影響か。
ウッドリー役のマイケル・シベリーは新シャーロック・ホームズの冒険に収録の「ホームズとプリマドンナ」にもでているらしいが未確認。
このほか、「サウンド・オブ・ミュージック」のブロードウェイ再演版で大佐役を演じているとか。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの人らしいので不思議ではないけど。
グラナダのシリーズは、元々NHK放送の吹き替え版で見ていたし、DVD-BOXも吹き替え版収録だったから、僕の中では吹き替えの印象も強い。
露口茂の声って比較的トーンが落ち着いているけど、ジェレミー・ブレットの声は強弱が激しい。
だからブレットの声で見ている方が、ホームズの変人らしさが際立っている気がする。
こういう映像化作品のもっとも重要なところは、それが映像であることだと思う。
特に英国文化の門外漢で、しかもそれがヴィクトリア時代の風俗と言うことになれば、小説だけで正確な情景を思い浮かべることは不可能である。
我々日本人が時代小説を読んで、考証的に正しい情景を思い浮かべられるかどうかは疑問だが、それでもちょんまげと刀と着物は想像できる。
ヴィクトリア時代と言われても、予備知識がなければ時代も場所も荒唐無稽な情景しか思い浮かばないが、こうして映像化してくれるとある程度答えに近いものを見せてくれる。
だから屋外でホームズたちが帽子を被っていないことが当たり前でないことが分かるし、自転車という単純な乗り物もヴィクトリア時代から現代に至るまでに、かなりの進化を遂げたことが見て取れるのだ。
ただ、時代劇の考証がいい加減なように、すべてのドラマの考証が正確とは限らないと言うことだけは、頭に入れておく必要があるけれど。