『電子マネー革命』
久々の書評。
『電子マネー革命 キャッシュレス社会の現実と希望』
伊藤亜紀著 講談社現代新書
僕はキャッシュレス推進派でクレジットカードと電子マネーを多用するのだが、知り合いに「実態のないお金なんて怖い」と言われたことがある。
その時は何も言わず受け流したけれど、心の中で思った。
実体のあるお金って何(笑)、と。
お金って言うのは「社会の約束事」なのであって、そもそも実態なんか無いのだ。
一万円札をありがたがっているかも知れないけれど、あれはただの紙切れ。
日本政府の信用の裏付けがあるから、紙幣が価値のあるものとして通用する。
お金についてそういう基本的なことを知らないで、電子マネーというものがなんなのか理解することは無理だろう。
僕が思うに、好むと好まざるとに関わらず、電子マネーの時代が必ずやってくると思う。
現金なんか使うと変人扱いされたり、あるいは迷惑がられたりする時代がもうすぐそこまできているような気がする。
それなのに、「お金の本質」を知らないのは恐ろしいことだ。
この本はあまた出版されている「電子マネーのお得な使い方」的な本ではない。
電子マネーとはいったい何なのか、これからどうなっていくのかを、思いっきり背伸びして大胆に書いた本である。
民間発行の電子マネーが、どういう裏付けで信用を得られるのか、「資金決済法」を背景に読み解いていく。
おもしろいのは小説部と解説部の二部構成になっている点。
小説部は気弱なサラリーマンと強欲な妻が「おカネ革命」に直面し事件に巻き込まれていく姿を描いている。
解説部は彼らが直面した事件などを題材に、現実問題としての電子マネーやポイントについて解説していく。
小説部は一見ありそうもない話に見えるのだが、多少極端に書いただけで、現実の問題をよくとらえている。
たとえば、電子マネー発行会社が倒産したら自分の電子マネー残高はいったいどうなるのか、あるいはポイントの価値は不変なのか、など。
最後の章では「世界共通マネー」という、ある意味荒唐無稽とも思える未来について描いている。
とんでもない大風呂敷なのだが、一蹴できない説得力がある。
現在電子マネーの実務上問題になっているようなことを紹介したり、電子マネーのお得な使い方を紹介したりする本ではないけれど、本質的な意味で電子マネーについて知りたければこの本はうってつけだろう。
今後どんな電子マネーが出てこようとも、基礎さえわかっていれば難しいことはなにもない。
☆☆☆★★