ご注文の品は以上でお揃いでしょうか
このエントリーのタイトルを見て違和感を感じないようなら、自分の言語感覚を疑った方が良い。
「おたばこはお吸いでしょうか」と同じく、敬語として破綻しているからだ。
敬語というのはいろいろあるけれど、基本は単なる丁寧な言い回しと、相手を持ち上げる・自分がへりくだる言葉遣いだ。
自分を持ち上げたり、相手を下げたりすることはないのである。
タイトルの「お揃い」は発言者の行為である。
と言うことは、ウェイトレスかウェイターかは知らないが、自分の行為を丁寧な表現で相手より持ち上げてしまっていることになる。
この場合、よりしっくりくるのは「ご注文の品は以上で揃いましたでしょうか」という言い回しだろう。
そもそも敬語表現以前に、客に向かってこんな確認をすること自体おかしなことだと僕は思うが。
「鈴木さんはいらっしゃいますか」
「あいにく鈴木は本日お休みを頂いております」
これも同じようにおかしい。
より適切なのは「あいにく鈴木は本日は休みです」だろう。
言語表現というのは常に変化しているから何が正しくて何が間違っているとは、僕は断定したくない。
昔は間違いとされていたことが、今では問題ないとされることもある。
それでも、より適切な表現がある場合はそれに従うべきだ。
適切ではない表現を多用する人に共通するのは、自分の表現が何を意味するかについて表層的にしか、あるいは全く考慮していないという点だ。
敬語ではないが、たとえばオフィスでの電話のシーンでこんなやりとりをよく聞く。
「鈴木さんはいらっしゃいますか」
「あいにく鈴木は席を外しております。よろしければ折り返し電話させますがいかがでしょうか」
「私も席を外しますので、こちらから折り返しいたします」
自分から電話しておいて「折り返す」はないだろう。
敬語は難しいかもしれないが、これは言葉の意味なのでよく考えれば誰でもわかることではないか。
話し言葉も気になるが、メールなどの文章はもっと気になる。
残るものだけに特に気を遣うが、ひどいものが多く目につく。
たとえ相手が顧客とはいえ、業務上のメールに「御座います」というのは僕の感覚にはない。
「若しくは」もないし「是非」もない。「致します」もない。
「有難う御座居ます」にいたっては論外だ。
IMEがあまりに便利すぎて、ついつい漢字に変換したくなるのはわかるが、漢字をあまりにも多用しすぎてはあまりにも読みにくい。
そしてそんな人に限ってなぜか「NGで御座います」なんて平気で書く。
達筆な毛筆の手紙などなら良いかもしれないが、ビジネスメールに漢字の多様は禁物。
メールの基本は簡潔で平易であること。
かしこまった手紙じゃないんだからたとえ相手がお偉いさんでもやり過ぎないのがマナーというもの。
カタカナもアルファベットも多すぎてはダメ。
新聞の文章がとりあえずの参考になるかな。
書き言葉にしろ話し言葉にしろ、おかしな表現を使っていたとしても指摘してくれる人はほとんどいない。
心の中で「ああ、こいつバカだな」と思われているだけだ。
それを肝に銘じて、自分が発する表現には気を遣うべきだろう。
そして注意してくれる人がいたらそれはまさしく「有り難い」ことなのでしっかりと受け止めるべきだろう。