007 スカイフォール
結論から言うと、これはなかなか「あり」だけど、このシリーズについての理解がないと面白みは半減かも。
そもそもこの作品は007シリーズ50周年の記念作品。
そのためか、「カジノ・ロワイヤル」からリスタートした設定を踏襲していない。
007に「冷戦時代の遺物」というレッテルが貼られるのもそのためだろう。
過去の007映画において面白いものに共通するのは、悪役の魅力だ。
僕がいまいちだと感じる作品の悪役は決まって小者感が強い。
ハビエル・バルデムが怪演するシルヴァは近年の007映画にはなかったタイプかもしれない。
動機こそ「小さい」けれど、その執念と行動力は往年の007映画に出てくる悪役に匹敵する。
変質的であり誇大妄想的であり、そして執念深い。
目的あるいは手段は想像を絶する大規模さが伴う。
核兵器を掠め取って国家から厖大な金を奪おうとしたり、有人衛星を奪って謀略によって米ソを戦争に引きずり込もうとしたりするのに比べれば、メディアを通じて世界を支配しようとするなんて小さなものだ。どうも近年の悪役は小物ばかりだった気がする。
もっとも、ブロフェルドのような巨悪は今では現実味を持たないが。
今回もその原動力は「個人的怨恨」なので小さいと言えば小さいが、目的のために何ものをも厭わない執念があるという意味(その目的達成のためにはすべてを失っても良いという覚悟がある)では他の追随を許さない。
ところで、本作の最も重要な登場人物はジュディ・デンチ演じるMだ。
M自身が重要な役どころとなるのは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」以来だが、その重さは格段に違う。
シルヴァの最終ターゲットはM自身なのだ。
この作品は過去と現在の対比で描かれる。
過去のオマージュが沢山出てくるという点もそうだが、高齢のエージェントは過去の自分と向き合わざるを得なくなるし、Mとシルヴァの因縁も過去のものだ。
ただ、その過去を直視して乗り越えることによって、新たな未来が開ける。
エンディングでは形式的には過去へ回帰しているが、そこには新しい未来が広がっているように思えてならない。
☆☆☆☆☆
何を書いてもネタバレになってしまうので難しいが、これだけは書いておこう。
ダニエル・クレイグのシリーズが始まって以来おなじみの面々が揃うことはなかったが、今回はM・マネーペニー・Qが揃っている。
残念なのはCIAのフェリックス・ライターがいないことか。
ボンドガールはいるにはいるが、あまり重要ではないのが悲しい。
ダニエル・ボンドには担当の女医と寝てしまうような軽さはないのだなぁ。
画像引用元 映画.com