書店を取り巻く状況について その1

齋藤健経済産業大臣が3月の閣議後会見で「書店振興プロジェクトチーム」を作るとぶち上げたからか、書店についての記事を多く目にするようになった。
その多くは書店の閉業や頑張っている書店の紹介記事で、共通しているのは「書店は文化だからなくしてはいけない」という考え方が根底にあることだ。

私にしてみれば、「何を今更」という感じが強い。
20年以上前からブログなどで危機感を書いてきた。そして今は、「もはや手遅れ」と言う考えである。
そういう思いもあってX(旧Twitter)でこの話題を取り上げてきたが、書き散らかした感が強いので改めてここにまとめようと思う。

齋藤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要

2024年3月5日(火曜日)
8時38分~8時46分
於:国会本館2階閣議室前

冒頭発言
書店振興プロジェクトチーム
おはようございます。
初めに、私から1点お話し申し上げます。本日、省内横断の組織として、街の書店を振興するプロジェクトチームを設置します。街中にある書店は、多様なコンテンツに触れることができる場として、地域に親しまれており、創造性が育まれる文化創造基盤として重要だと考えています。
ただ、こうした書店が近年激減していまして、約4分の1の自治体から書店が消えているところです。私自身、この現状に危機感を持っています。
本プロジェクトチームでは、今ある様々な施策をどのように活用している例があるか、創意あふれる工夫に光を当てていきたいと思っています。詳細は事務方にお問合せいただければと思います。
私からは以上です。

Q:冒頭御発言がありました書店振興のプロジェクトチームについて伺いたいんですけれども、大臣は危機感があるとおっしゃいましたけど、もし問題意識みたいなのはどのようなことがあったのかというようなところと、これ大臣直属のチームなのかということも併せてお願いいたします。
A:もともと私は本屋さんというものは、そこに出かけることによって新しい発見があって視野も広がるし、いい拠点だと思っています。これは何も一中小企業の問題ではなく、まさに日本人の教養を高める一つの基盤だと思っているのですが、それが今全国で激減をしているとのことです。したがって、ある意味リアルなコンテンツとして非常に重要なものが、日本列島上からどんどんなくなっていくのはいかがなものかという思いがもともとありました。そういう意味では、書店振興も経済産業省で当然やれる話だと思いますので、どこまでやれるかというのはこれからですが、盛り上げていきたいと思っています。
海外でも、書店の減少について危機感を感じている国も多々出てきていまして、フランスや韓国でも同じ問題意識で取り組んでいますので、そういう事例も参考にしながら、我が国としてどこまで何ができるかしっかりやっていきたいと思っています。

https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2023/20240305001.html

この経済産業大臣の発言に耳を疑った。
書店が文化として大事だというなら、その保護は文化庁の仕事だろう。
経産省ならば「産業として」考えるのが当然だろう。その観点では、既に衰退が明白な書店からきちんと人材などを他業界に移転させ、軟着陸させることが経産省の仕事ではないのか。

書店というものがこの世に不必要だとは私は思わないが、現在の状況は必要性に対して業界の規模が多いのだろうと考えている。
雑誌が担っていた部分はWeb媒体などに変わったし、電子書籍も普及しているところだ。もはや、「誰もが本を買う時代」ではないのだ。
産業が適正なサイズまでシュリンクするのは当然のことだろう。

そもそも、書店は保護すべき文化創造基盤なのか。
同じようにシュリンクした業界にCDショップがあげられると思うが、政府からの保護は記憶にない。これは保護すべき文化創造基盤では無かったと言うことだろうか。

出版物は独占禁止法の例外規定で、価格拘束が認められている。既に特権的な地位であるのに、これ以上何の保護が必要なのか。

私はこの価格拘束(再販制度)が書店にとっての足枷と考えてきた。返品を認める代わりに書店の取り分が25%程度に抑えられ、粗利が低いのだ。価格拘束を撤廃して、せめて粗利が40%程度になればこんな苦境にはならないだろうというわけだ。ただ書店業界自身がこの再販制度の廃止に反対してきて、愚かしい状況を招いている。

書店は現状を「Amazonなどの書店が送料無料だから」「電子書籍が普及したから」と他人のせいにしているが、私に言わせれば自らが改革を怠ったせいだ。

経産省のプロジェクトチームがどういったことをやるのかは今のところわかっていない。
ただ、斎藤経産大臣が設立した「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の提言では、「ネット書店による送料無料化や過剰なポイント付与」、本の無料配送を禁止するフランスの「反アマゾン法」、学校の図書館などが本を購入する際、地域の書店を優先する韓国の取り組みなどに触れているので、おそらくそれに近いことを行ってくると思われる。

これらの対策に果たして実効性があるのか。
例えば送料無料禁止だが、電子書籍は書籍の扱いではないので無関係だし、書籍以外も扱う通販サイトで書籍以外の商品と併せた場合の扱いが疑問。またAmazonのような大手が直接書籍扱いとしない書籍を出版し専売とした場合どうするのか。図書館が地域の書店からの購入を優先しないのは自治体の図書館予算が少ないから定価で買えないためだ。

紙の本が電子書籍より優れている部分はあるにせよ、電子書籍のデバイスが改善されればそれは限りなく少なくなってゆくと思われる。
CDがダウンロードやストリーミング配信に取って代わったように、紙の書籍は電子書籍に変わって行く。いかに書店を保護しようとも、売るものがなくなるのだ。
しかし音楽業界ではレコードがしぶとく生き残り復権したように、一部の好事家などのために一定数紙の書籍とそれを売る書店は残るだろう。
文化創造基盤は老人達の心配とは関係なく、書店が消えればそれ以外の何かが現れるだけのことだ。

経産省は余分なことなどせずに、市場原理に任せるべきだろう。

(この項続く)

無學童子

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