電子書籍元年
今年は電子書籍元年と言われた。
昨年のGoogle ブックス騒動、今年に入ってからのiPad発売、黒船と言われながら日本未発売のKindleの話題が、業界を後押ししたように見える。
20年以上前にCD-ROM書籍と専用リーダが世に出たが、普及することなく無くなってしまった。
その系譜は電子辞書に受け継がれ、後に大ヒットとなって現在に至るが、「読む本」としては消えてしまったも同然だ。
2000年代に入ってからもパナソニックやソニーが電子書籍端末を出したが、死屍累々という有様である。
僕は、電子書籍の普及の鍵は適切なデバイス・適切なコンテンツ・適切なサービスだと思っている。
文庫本程度の大きさで、画面が見やすく管理が容易で、本の購入も容易で、価格が手ごろであるなら、消費者から見て電子書籍が普及しない理由はないと思うのだ。
過去、死屍累々だったのは適切さが著しくかけていたからに他ならない。
最近、別冊宝島で『電子書籍の正体』という小冊子が出た。
電子書籍ブームの中で、「これでもか!」というほどネガティブな内容で、突っ込みどころが山ほどあって大変おもしろい。
色々なアプローチから、「電子書籍は儲からない」と唱えているのだが、この本の存在そのものから、何故今まで電子書籍が普及しなかったのかがよくわかる。
多くの出版社が電子書籍に対して極度にネガティブなのだ。
本文では、電子書籍には専用端末向け・PC向け・携帯向けがあるが、それぞれの特性を無視して意図的にごちゃ混ぜにしたり、意図的に明確に分けたりしている。
たとえば宮部みゆきはiPadは重いと書いているが、同様の機能を持つiPhoneや、インタビュー時にすでに米国では発売しているKindleやSonyReaderには全く触れていない。
また書店に対する感謝的な言葉を並べているが、宮部みゆきの人気の新刊はパターン配本で町の小さな書店に配本されていないことに気づいていない。
宮部みゆきは大手出版社や大手書店に極度に有利となっている現在の欠陥だらけの書籍流通システムには何の疑問を抱いていないのだろうか。
電子書籍の購入者100人にアンケートを採り、ここでも「電子書籍は儲からない」という結論を導き出している。
ここでもやはり専用端末向け・PC向け・携帯向けを区別していないため、電子書籍の欠点をあげる項目で「画面が小さい」「目が疲れる」といった、電子書籍の本質とは無関係な端末固有の問題を回答として紹介している。
「購入タイトル数・金額も少なめ」という結論を導き出した設問は「過去一年間で何冊購入したか」「過去一年間でいくら使ったか」「一冊いくらならもっと買うか」というナンセンスな内容。
そもそも電子書籍の市場が立ち上がっていない段階で、何冊も購入したい本はなかなか見つからないし、購入数が少なければ金額も少なくなる。
「一冊いくらならもっと買うか」で最も多かったのは100円以下なのだが、そもそもコンテンツの内容が提示されていない段階で値段はつけられないだろう。つまり、週刊誌連載のコミック一話分なのか、「坂の上の雲」全話なのか、そういったイメージを提示しないで金額を聞くのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。
電子書籍を買ったとされる100人が、紙の書籍ではどういう回答をするのかも併せて調査しなければ、全く比較にならないではないか。
年に数冊しか買わない人と、毎月何十冊も買っている人とでは、同じ回答でも意味が大きく違ってくるからだ。
一番紙幅をさいているのが「コスト構造」について。
原稿料や印税・編集費用などがかかる上に、流通業者がかなりの部分を持って行くので儲からないと言っている。プラットフォームを自分で作った場合には、クレジットカードや電子マネーの決済業者の手数料がばかにならないとか。
これって、ユーザには関係のない話だよね。
決済手数料について言えば、紙の書籍だって書店でクレジットカードで買えるわけだけど、ならばその手数料はいったいどこが負担しているのか?
たしかに、電子書籍というのは非常にやっかいな問題を抱えているわけだけれど、だからこそ20年以上にわたって失敗し続けながらも、常に新たな動きが起きてきたのである。
ここ数年で、少なくともハードウェアに関しては及第といえるものが出てきたと思う。
あとは、コンテンツを供給する側の意識と努力の問題だと思う。